猫は七面鳥とおしゃべりする
猫は七面鳥とおしゃべりする (ハヤカワ・ミステリ文庫) 原題:The Cat Who Talked Turkey | |
リリアン・J・ブラウン/Lilian Jackson Braun 訳:羽田詩津子 | |
ハヤカワ・ミステリ文庫/早川書房(2006/01) | |
邦題『猫は七面鳥とおしゃべりする』は、原題『The Cat Who Talked Turkey』そのまま。裏表紙にある「怪鳥」というのは、ムース郡では絶滅したはずの野生の七面鳥のこと。このシリーズの中では食用としてよく登場するが、生きている七面鳥、しかも野生となると「怪鳥」扱いらしい。それとも、野生と食用ではぜんぜん違うのか?
ココの鳴き声が七面鳥のそれと似ているらしいが、ココと七面鳥の邂逅シーンを読むかぎりでは「おしゃべり」している感じはしない。しかも、この七面鳥と事件とはまったく関係ないようだ。 裏表紙の内容紹介も不正確で、怪鳥出現の前(と後)に死体が発見される。タイトルと内容を無理に結びつけようとするから、おかしくなる。
内容はというと、ムース郡はイベント続きで、クィラランは相変わらず忙しい。いちばんの目玉は、ブルル創立200年祭と、クィラランが脚本と主演を担当する一人芝居。大イベントではないが、冒頭の新しい書店の起工式も、ムース郡らしくて笑えた。マスコット猫も決まって、開店準備が着々と進んでいて今後が楽しみ。また、ムース郡の伝説を集めた『信じられない小話』の出版に続き、『猫は日記をつける』を執筆中。そのため『日記』との重複はあるものの、ココ&ヤムヤムの出番も多いような気がする。
肝心の事件はオマケに近い。ココの「死の咆哮」の後に、自分の所有地で男性の射殺死体が発見されたにもかかわらず、クィラランは調査らしいことは何もしない。ココは最初から犯人に嫌悪感を示し、ある本を本棚から落とす。元刑事のシモンズが、その本のタイトルを見て「逆に文字をつづった言葉みたい」と言った時点で、クィラランはそれが犯人の名前を指していることに気づいてもよかったはず。シリーズ1冊目『猫は手がかりを読む』で、ココは同じ手を使ったのだから。
もともと推理小説の要素は少ないシリーズなので、殺人事件に複雑な動機やトリックがないのはいつものこと。事件そのものより、クィラランとココ&ヤムヤムの生活を楽しむのが、このシリーズの読み方であり、魅力だと思う。